その人の歌声に出会ったのは、私がワールド・ミュージックの世界を徘徊しだした頃だから5年ほど前のことになります。

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Wanda Warska(ヴァンダ・ヴァルスカ)。1932年、ポーランド生まれの女性シンガーで、83歳となった今でも現役を誇る大御所です。ままJAZ系に分類されることがありますが、そうでない曲も名曲が多いように思います。

彼女の歌う曲は旧東欧を髣髴とさせる翳りのある(これは先入観念ですね)哀調を帯びたものが多く、それを切々と歌う彼女の喉の奥から不思議な震えが聞こえるところがなんとも魅力的なんですね、これが。

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当初はyoutubeからmp3でダウンロードして聞いたりしていましたが、音がどうもこれじゃあなあ、ということで、彼女のCDはないものかとネット上で見つけたのが同国のロック歌手Niemenと競演したこの一枚。

「演劇とテレビのための音楽」という題名のようです→

入手はしたものの彼女の主要曲がここにはほとんど採録されていない、ということで、ポーランドへ…

wanda warska02「行きたしと思へども ポーランドはあまりに遠し」で、同国内のサイトを集中的に検索でつつき回したところ、10枚組みの全集「piosenki z piwnicy」が2004年にリリースされていることを知りました。しかし発売されて久しい年月が経過しているため新品の在庫はもちろんなし、中古も取引履歴は見つかるものの、今現在、出回っているものがない。

←「piosenki z piwnicy(地階からの歌)」

 

無駄骨だとは思いつつ、3~4ヶ月に一回は検索かけること数年に及びました。そして、「念ずれば通ず」という言葉が嘘でないことが判明したのが昨年の年の瀬も押し迫った頃。

Allegro.plというサイトに個人出品された「piosenki z piwnicy 250.00zł(ズローチ)」という長年の悲願を叶えるその光まばゆい文字列をとうとう発見したのです。早速、出品者に日本までの送料をたずねたところ60.00złとのこと。2,000円かぁ、ちょっとタケ~なぁと思いつつ、これを逃したら次のチャンスはいつ来るか分からない、ということでポチッって初春の到来を待つこととなりました。

1週間が経ち、2週間が過ぎ、そろそろ来るかなと思っている内に3週間が無情にも流れ去っていきました。これはマズイことになるかも、と思い、出品者K氏に「書留」で送ったかどうか確認すると、書留のコピーが添付されたメールでいわく「以前、アメリカへ送ったときも5週間かかった」のだそうだ。いくらなんでも5週間はかかりすぎだろ、と思いつつ書留コピーを見ると、「エコノミー」の欄にチェックが入っている。うーん、2,000円でエコノミーかよ、とぼやく自分。

で、その5週間もあれよあれよと言う間に通り過ぎ、仕方なしに今度は郵便局へ問い合わせに行ってみることにした。

「このコードはポーランド国内のものなので日本では分かりかねます」

書留コピーのバーコードを照合した局員さんのツレナイ返事に、ここは引き下がるしかないと諦めてはみたものの、じゃあ、次は本国の郵便局に聞いてみるしかなかろうと、気を取り直してポーランド郵便局に書留コピーとともにメールを打つことにした。

「この郵便物の配達には3ヶ月は必要」

なんとも頼もしいかぎりの回答に気力全喪失。一体、どんなことをしたらこれほど遅く運べるのか不思議でなりません。徒歩ですか~? いや、船便ならありうるか。思いは千々に乱れつつ、出品者K氏に愚痴ることにしたのは、すでに購入から2ヶ月を過ぎたころでした。

「お金は返金するよ」と言ってくれたのがせめてもの救いでしたが、長年の悲願が成就しないことも辛いよなあ。

結局、私はWanda WarskaのCDを手に入れる星の下には生まれて来なかったのか、このまま彼女の歌声をmp3のしょぼい音で聴きながら生涯を終えるサダメだったのか、と泣く泣くK氏からの返金を受け入れたのは、まさに花咲きほこる麗しの時節。

そして忘れもしない5月の17日。いや、18か19日だったでしょうか、忘れてしまいました。

それは突然やってきたのです。

「お届けものです」

はて、何だろうと見てみると、郵便屋さんの手には小さな箱が乗っかっているではありませんか。

ひょっとして、これは?

「外国からの小包です。サインお願いします」という嬉しい一言。

「えーっ! いまごろ? 来ないからお金返してもらったのに」

と言いつつ、胸躍らせながら受取にサインする私。

なんと5ヶ月近くの月日を費やして、いまようやく待望のWandaのCDが到着したのです。海外からCDが到着しなかったことは何度かあるものの、これほど時間をかけて運ばれてきたのは初めてです。まさに奇跡、21世紀のギネス級遅配記録を更新したのではと思えるくらいの緩慢さです。

早速、K氏に返金分をまた返金し、お礼のメールを差し上げると

「誰ぞ知る Wanda過ごせし その五月(いつつき)を」

というような返信が返ってまいりました。果たしてこのMusic CDは5ヶ月もの間、いったいどこをどう旅していたのでしょうか? CDは応えてはくれません。そして、ただひたすらWandaWarskaの歌声をこれまでより遥かに生々しい音で奏でてくれるだけなのです。

どっとはらい。

(by T.S.)