今年も鉄コーティング直播に取り組む農家さんの密着レポートが始まった。自分が担当するようになって今年で4年目。過去、新潟、秋田、山形の農家さんたちを追いかけてきた。今年の取材農家さんは青森県だ。この企画が始まると春が来たと感じる。今年もまた米づくりが始まるのだ。土づくりから収穫まで1年を通して先進農家の米づくりを取材するこの仕事は、非農家出身の自分にとって、大きな糧になっている。農家さんと一緒に圃場に足を運び、生長する稲を直接手に取って栽培に携わることができる。机の上では到底身に付けることができない生の知識が得られるのだ。現場に出て、土を肌で感じることで、初めて読み手に伝わる記事が書けるのだと思う。

DSC_0212

         ▲山形県寒河江市での代かき風景(平成26年5月撮影)

直播栽培には、大きく分けて乾田直播と湛水直播の2種類がある。取材対象の鉄コーティング直播は、近畿中国四国農業研究センターで研究、開発された湛水直播の新技術である。この名前を最初に聞いた時、「お米に鉄?大丈夫?」と、食べ物と鉄との関係がイメージできなかったことを覚えている。それまでの湛水直播は、酸素ボンベ代わりのカルパー(過酸化石灰)をコーティングして土中に播種される。

DSC_08

▲鉄粉をコーティングした直後の種籾。この後、  酸化して赤茶色になる

鉄コーティング直播は、鉄粉をコーティングした種籾を、土壌の表面に播くことで、湛水直播の課題だった出芽苗立ちの安定を図った技術だ。鉄をまぶすことで、重しの役割となって湛水状態でも種籾は流されない。よくよく考えれば鉄は土の中にも元々ある成分。環境にも優しい。また直播の大敵、鳥による食害も軽減される。鳥にとって、鉄にまみれた籾はさすがに硬くてまずいだろう。しかも出芽苗立ちが安定することで、移植と比べて遜色のない収量と品質が期待できる。これは農家さんにとって朗報だ。

 鉄コーティング直播は、昨年度で栽培面積が全国で1万haを超えたという。約5年間で10倍の伸びだ。農家の高齢化や後継者不足から、育苗の軽労化と米づくりのコスト低減を図るため、直播に取り組む農家が増えている。しかし地域ごとの気候や圃場条件など取り組む環境によって、まだまだ結果に差があるとも聞いている。直播の課題、雑草対策にも工夫が必要だ。当然、そこに情報の需要が生まれる。これが自分たちの仕事になる。取材を通して農家の人たちに、役に立つ情報をひとつでも多く提供できればと思う。昨年以上に、仕事の質を高めていけるだろうか。緊張と楽しみの季節が始まった。

(by T.M.)